Science

MuSCAT開発の経緯

 2009年に打ち上げられたNASAのケプラー衛星は、系外惑星が主星の前を通過する現象を発見するトランジット法を用いて、4000個あまりの系外惑星を発見してきました。
その後継機として2017年に打ち上げられる予定のNASA/MITのトランジットサーベイ衛星TESS (Transiting Exoplanet Survey Satellite) は、ケプラーが観測してきた領域よりももっと太陽系に近い、およそ100光年以内にある恒星のまわりでトランジットをする惑星を探します。 TESSの最大の目標は、太陽系から近いところにある恒星のまわりに、第2の地球とも呼べる生命居住可能惑星を発見することです。 TESSチームによる最新の見積りでは、TESSは生命居住可能領域付近にある地球型惑星を20個程度発見すると期待されています。 私たちはこのTESS計画に参加し、第2の地球とも呼べる惑星をいち早く発見して、 その詳細な性質を調べていくことを目的としてMuSCATを開発しました。

MuSCATのサイエンス

  1. 新しいトランジット惑星の発見確認観測
  2.  トランジット法は、系外惑星が主星の前を通過することによって起こる主星のかすかな減光をとらえる方法です。しかし、宇宙には2つの恒星がお互いのまわりを公転する連星が多く存在し、その中には惑星のトランジットと同様に一方の恒星がもう一方の恒星の前を通過する食連星も存在しています。そのため、多数の恒星の明るさをモニターするトランジットサーベイでは、食連星も多数発見されてしまい、場合によっては系外惑星のトランジットと見間違えてしまうことがあります。そこでトランジットサーベイによる系外惑星探しでは、発見された惑星候補が本物の惑星であることを確認する「発見確認観測」が必要になります。

     発見確認観測にはいくつかの方法がありますが、そのひとつの方法としてトランジットの減光を複数の波長の光で観測し、その深さを比較するという方法があります。惑星は自分では可視光を発しないので、惑星がトランジットしている部分は基本的に真っ暗です。そのため、主星の隠された割合だけ減光が起こり、青い光でも赤い光でもその減光の深さはほとんど変わりません。しかし恒星は自分自身で可視光を発しており、しかも波長によって明るさが大きく異なるので、トランジット惑星候補が本当は食連星だった場合は、減光の深さが波長によって大きく異なってしまいます。このことを利用して、MuSCATは3色を同時に撮影できるというユニークな機能によって、たった1度のトランジット観測でそのトランジット惑星候補が本物の惑星か、それとも食連星の見間違いなのかを判別することができます。

     私たちはMuSCATを用いて、TESSで発見されたトランジット惑星候補の中から第2の地球とも呼べる生命居住可能惑星をいち早く特定し、8.2mのすばる望遠鏡やTMT(30m望遠鏡)などでの詳細観測へとつなげて行きたいと考えています。

    Image
    地球型惑星のトランジットのイメージ図

  3. スーパーアースの主要大気組成
  4.  地球と海王星の中間のサイズをもつ系外惑星のことをスーパーアースと呼びます(注)。スーパーアースは私たちの住む太陽系には存在しませんが、宇宙では最もありふれたタイプの惑星であることが最近の研究から分かってきました。しかし、スーパーアースがどのような物質で構成され、どのように形成されたのかはまだ良く分かっておらず、大きな謎として残されています。私たちはMuSCATを用いてスーパーアースが持つ大気の主要成分が何かを調べることで、スーパーアースの組成や起源の謎を解き明かしたいと考えています。

     具体的には、トランジットを起こすスーパーアースに対して青、赤、近赤外の3色で同時に観測を行い、色ごとのトランジットの減光率を比較することで、惑星がもつ大気の主成分を推定します。例えば、大気の主成分が水素のような軽いガスの場合は、大気分子によって波長の短い(青い)光ほど強く散乱される「レイリー散乱」の効果が顕著に現れ、青い側ほどトランジットの減光率が大きくなります。一方、大気の主成分が水蒸気のような比較的重たい物質の場合は大気の厚みが自重で減るため、色による減光率の違いがあまりみられなくなります。また、もし大気中に厚い雲がかかっている場合は、どの色の光も同程度に散乱されるため、減光率は色によらず一定となります。

     これまでに大気の組成を詳細に調べられるトランジット・スーパーアースの数は数個しかありませんでしたが、今後TESSなどの活躍によってその数が飛躍的に増加することが予想されています。私たちはこの絶好の機会をとらえ、MuSCATを用いて多数のスーパーアースの大気組成を調べていく予定です。

    (注) 「スーパーアース」の正確な定義はまだありません。ここでは半径が地球と海王星(地球の約4倍)の間の惑星をスーパーアースと呼んでいます。

    関連ページ:

  5. ガス惑星の空模様
  6.  木星や土星をはじめとして、太陽系内の巨大ガス惑星や衛星の大気中には一般的に雲や「もや」が存在しています。同様に系外惑星においても雲や「もや」が存在する可能性が考えられます。しかし、トランジット法で発見される系外惑星の大半は公転軌道が主星にごく近く灼熱の環境をもっており、そのような灼熱のガス惑星でも雲や「もや」が普遍的に存在するかどうかはまだ良く分かっていません。惑星の大気中に雲や「もや」が存在していると主星から来る光の吸収が妨げられ大気の温度が下がるため、雲や「もや」が存在するかどうかは惑星の大気環境を知る上で重要な情報です。前項で述べた通り、トランジットの減光率が色によらず一定の場合は厚い雲に覆われている可能性が高いと言えます。また、可視光に比べて近赤外での減光率が小さくなる場合は大気中に「もや」がかかっている可能性が高くなります。この性質を利用して、私たちはMuSCATを用いて多数のガス惑星のトランジットを観測し、雲や「もや」が存在する頻度やその存在条件について調べていく予定です。

    関連ページ:

MuSCAT photo

MuSCAT logo