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近赤外高分散分光器 IRD

太陽より小さい星の周りを回る地球型惑星を探すための、現在開発中の新しい分光器です(図1)。これまでの惑星探査は、主に太陽に似た恒星を周回する惑星をターゲットに行われてきました。しかし結果として、太陽のような星の周りにある地球と良く似た大きさ・環境にある惑星の探査はとても難しいことが分かりました。まず公転周期が長い、という問題があります。このような惑星は、地球と同じくらいの時間をかけて主星(惑星軌道の中心にある恒星)を一周します。つまり、惑星を発見し、その公転等を詳しく調べるためには、少なくとも数年間の継続的な観測が必要になってしまいます。

そこで、太陽よりも小さい、M型主系列星(以下M型星)と呼ばれる星を周回する地球型惑星を探すことにしました。まずM型星は太陽に比べて軽いため、惑星が地球と同じような温度になるためには、主星と近くならなければなりません。そうすると惑星の公転周期は数日から数週間程度と、地球に比べてとても短くなります。そのぶん、短期間で多くの周期を観測できます。さらにM型星は主星と惑星が近いことと相まって、主星のふらつきがずっと大きくなります(図2)。そして、M型星は太陽のような恒星に比べてとてもたくさん存在します。これらのことを考慮すると、太陽のような恒星よりもMがた星の方が、地球ににた惑星を発見できる可能性が高いと言えます。その例はまだ非常に限られています。このように、「第二の木星を直接に写し、精査すること」が当プロジェクト室の現在のミッションのひとつです。

ただし、M型星の観測にはひとつ難点があります。星が小さくて暗いため、主星の観測が困難なことです。この点を克服するためには、太陽に比べてM型星の温度は低く可視光よりも赤外線で明るく輝いているため、赤外線での観測が重要になります。しかし、装置の温度管理や検出器などの難しさから、可視光に比べて赤外線観測装置は遅れていました。

現在、赤外線で星のふらつきを測定するIRD (InfraRed Doppler: 赤外ドップラー)と呼ばれる高分散分光器を開発しています。この装置は、星からの光を波長ごとに細かく分解した強度(スペクトル)を測定する装置です。星のスペクトルには、特定の波長だけ光が弱い吸収線がたくさん現れます。これは星の内部から出る光が、星の大気にある原子や分子によって遮られて出るものです。星や惑星の公転に寄ってふらつくと、この吸収線の位置(波長)も少しふらつきます。この吸収線のふらつきを測定することによって、惑星の重さや公転周期を決めることが出来るようになります。
観測開始目標は2014年、その後数年の観測を経て、多くの地球の要な惑星を発見できることを期待しています。

IRDの分光器光の通り道。スリットから入った光がグレーティング等を通り、右下の検出器に入る。

図1:開発中の分光器IRD

図2:視線速度法の概念図

図2:視線速度法の概念図

暗すぎて直接見えない惑星の存在を確かめる手法の一つ。惑星がAの位置にいるとき、主星もAの位置におり、観測者に少し近づいていて、光が少し青く(波長が短く)なります。また、惑星がA’にいる時は、主星もA’の位置におり、観測者から少し遠ざかっていて、光が赤く(波長が長く)なります。この現象を利用して系外惑星を見つける方法を視線速度法といいます。